『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている』を読む

150508

著者の佐々涼子さんのことを知ったのは、かなり早い段階だったと思う。前著『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』が出た前後、当時いた会社の後輩から佐々さんのことを聞いた。開高健ノンフィクション賞の受賞祝いに同僚たちが行くシーンを覚えている。ただ、前著を読んだのは台湾に来るほんの直前だった。当時の上司に借りて一気読み。台湾に渡る際に保険をかけたのも、旅行の際に保険をかけることを勧めるのも、佐々さんのおかげだ。

その佐々さんが新刊を出し、直後から話題になっていたのは知っていた。あちこちで取り上げられ、矢も盾もたまらなくなり、直後の一時帰国で入手して、単行本を手に入れた。実際にページを開くまでには、ちょっと時間がかかったけれど、ようやっと読み終えた。

本を読む前に、目次と奥付を見るのは、編集者のくせかもしれない。奥付の前ページに、やっぱりあったのはこの記載だった。

エンジェルフライト 国際霊柩送還士 (集英社文庫)

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本文:オペラクリーム HO 四六判 Y 目 58.5kg(日本製紙石巻工場 8 号抄紙機)
口絵:b7 バルキー A 判 T 目 52kg(日本製紙石巻工場 8 号抄紙機)
カバー:オーロラコート A 判 T 目 86.5kg(日本製紙)
帯:オーロラコート四六判 Y 目 110kg(日本製紙)

本文、口絵、カバー、帯、とそれぞれに使われている、紙の銘柄、大きさ、紙の目の方向、重さ、そしてその用紙が作られた工場と機械が紹介されている。こんなふうに用紙名を記載した本は時折見かける。ただ、ほかの本と本書は決定的に違う。用紙の銘柄に加えて、その製造工場と機械名まで書かれていることだ。こうした記載は、今後、出版界で定着していけばいいのに。そう思うのには理由がある。プロローグに震災直後の編集者との、こんなやり取りが紹介されている。

 当時、私はある雑誌で記事を書いていた。関東でもたびたび計画停電があるなど、不安な日々を送っていたが、その雑誌の編集者と顔を合わせると、彼女は参ったという風に、こんな話を始めた。
 「今、大変ですよ。社内で紙がないって大騒ぎしてます。石巻に大きな製紙工場があってね。そこが壊滅状態らしいの。うちの雑誌もページを減らさないといけないかも。佐々さんは東北で紙が作られてるって知ってましたか?」
 私は首を振った。ライターの私も、ベテラン編集者の彼女も、出版物を印刷するための紙が、どこで作られているのかまったく知らなかったのだ。私たちはそれに改めて気づいて、迂闊さに呆れた。

まさに、当時の編集者やライターの多くに共通するシーンだったのではないだろうか。かくいうわたしもその一人だ。それにしても、奥付の記載には印刷所までは載るのに、用紙についてはそういえば載らないのはなぜなのだろう。本づくりに決して欠かすことのできない用紙の製造場所が記載されていないのは、つまり、スーパーに売られている商品ある生産地の記載がないのと同じことではないか。一緒に載せればいいのに。わたしたちが忘れないためにも。

本書で紹介されている、用紙工場再生までのストーリーは、すでにあちこちで取り上げられているし、やっぱり本書を読んでいただくこととして、とりわけ秀逸だと感じたのは、第 7 章「居酒屋店主の証言」だ。この章には、被災地で起きていた、人間の、悲しくもどうしようもない愚かしさが記されている。混乱した状況の中で人が何をするのか、工場の再生に必死になる人がいるそのすぐ側で起きていたことが。

いろんな考え方の人がいるだろう。だけど、誰にもどうしようもない大きな混乱の中には、人の美しさだけではなく、醜い部分だって見えたはずだ。「人はよいことも、悪いこともする生き物だ」という人の二面性を作品に描いていたのは池波正太郎だけれど、よいことだけではなく、そうじゃない面も紹介されていたことに、なんだかホッとした。

本書のサブタイトルは「再生・日本製紙石巻工場」とある。工場では 8 号機から再稼働を始めた。巻末には「本書売上の 3%を、公益社団法人 全国学校図書館協議会を通じて石巻市の小学校の図書購入費として寄付いたします」と記されている。石巻の子どもたちが、本を通じて自分の世界を広げていくよう願う。

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