貝原益軒『養生訓』に書かれたどんなダイエット法よりも大事なこと。

養生訓 (講談社学術文庫)

新品価格
¥1,350から
(2015/10/23 23:41時点)

台湾に来る前、台湾に詳しい人や留学経験者など、結構な数の人から「台湾の料理はおいしいから、きっと太るよ」と言われていた。もはや脅しに近いほどに。ところがどっこい、来台から 2 年が経過し、今のところ同じ状態をキープしている。ちなみに付け加えておくけれど、台湾に嫁いできた友人たちはスレンダー揃いだ。

昔は少しでも太ると、母から「ズボンがきつそう」などとすぐに指摘が飛んできていた。別に本人は気づいたことを言ったまでだと思うのだが、実はかなりのプレッシャーだった。なぜプレッシャーだったのか。ある時、友人がこぼしたひと言。彼女はこう言った。

「ダイエットって、究極の自己否定だからね」

自分が母のひと言をなぜプレッシャーに感じていたのかが、明らかになった瞬間である。ただ最近は、巷でいうところのダイエットや食事法、トレーニングは出発点が逆さまじゃないかと思うようになった。理由は『養生訓』である。

本書の原版が刊行されたのは 1713 年、江戸時代だ( Wiki には 1712 年とあるが、講談社文庫の書籍情報に基づくことにする)。元来虚弱体質だった貝原益軒翁が、齢 80 を越えて記した身体を大切にする具体的な手法を述べた指南書だ。一貫して繰り返し手を替え品を替えて述べているのは、その過ごし方。ギューっとまとめてしまえば、こうなる。

 食べ過ぎに気をつけ、
 適度に運動し、
 しっかり眠り、
 心穏やかに過ごすこと。

スマホもテレビもない江戸時代に書かれた本書でさえ、食べ過ぎに注意せよと苦言を呈しているのだから、食の情報があふれる現代で「食べ過ぎない」はかなりの難題だ。だが、翁は言う。

とくに飲食は満腹することをさけなければならない。また最初から慎めば、あとの禍(わざわい)はないのである。(本書より)

飯はよくひとを養うけれども、同時によくひとを害するものである。だから飯はとくに多食してはいけない。つねに適度の分量を定めておかなければならない。飯を多く食べると、脾胃をいため、元気をふさいでしまう。ほかのものを食べすぎるよりも、飯の過食は消化しにくくて大害になる。(本書より)

食べることが好きな身にとっては、腹八分の実行でさえも危うい。だが翁はこうも言う。

「聖人は未病を治す」といわれているのは、病気にかかるまえに、予防的に注意をすれば病気にならない、ということである。(略)慎まないために大病になって、思いのほか悲しみ、長く苦しむことになる。病気とはそうしたものである。病気になると、それ自身の苦痛だけでなく、痛い針で身をさし、熱い灸で身をやき、にがい薬を飲み、食べたいものをたべず、飲みたいものをのまないで、身を苦しめ、心を傷つける。病気でないときに、予防的に養生をすれば病気にはならないで、目に見えない大きな幸せになるのである。(本書より)

今、巷にあふれているのは、食材のさまざまな調理法や、特定の食品に偏ったダイエット方法、あるいは身体の鍛え方ばかりだ。ダイエットにナントカがいいとなると、スーパーからそれだけが消えることだってある。けれども、翁の言う過ごし方を改めて現代風にいえば、食事を控えめに取り、適度に身体を動かし、ストレスを無くして質の高い睡眠をとること。

アレ…そうなのだ。
巷のハウツーと『養生訓』で言われていることは出発点が違うのだ。その差は、木と森ほどに、枝と幹ほどに、見事なまでに。

さまざまな研究が進んで、食材の効能や各種のテクニック、ハウツーがあふれかえっている。だけど、目的がダイエットになっていないだろうか。身体さえ鍛えればいいのだろうか。目的は痩せて絞った身体になることなのか。そうではなくて、健康に過ごす、あるいは病気にならないように過ごすことではないか。そのために、ダイエットやトレーニングはあるのではないか。

そもそも、わたしたちは、まず基本の理解ができているのだろうか。

本書が書かれた江戸時代は、たかだか 300 年前。人類の歴史で考えれば最近の話だ。人が満腹を常時感じられるようになったのを戦後とすればめっちゃ最近のこと。この間に、人の身体は変わっていない。にもかかわらず、である。

そんな現状をたとえるなら、PCならOS無しにアプリを搭載するようなものだし、数学なら加減乗除を知らずに難解な公式だけ覚える、みたいなことだ。暮らしにおいては、身体に負担をかけない過ごし方、まずは基本の養生を押さえておくことではないか。

連日、有名人の病の告白と同時に、検査が十分だったのか、治療法は適切だったのかなどといった疑問が伝えられる。目を向けるべきは、検査のタイミングや治療法の適否といったピンポイントの話ではないはずだ。むしろ、忙しすぎる現代の暮らしで、病気にならないように過ごすにはどうしたらいいのか。つまり、もっと根本的なところを見直さなきゃ、と思うんである。

養生については、別記事もどうぞ。
あ、あとこんなことも書きました。

 

スポンサーリンク


 

Post Navigation