読みながら、頭の中にファンファーレが鳴り響いていた。いや、ファンファーレというよりも、まるで地響きのような衝撃だった。
そのファンファーレは、書いた文章を本にして届ける、ということそのものを問い直していた。書かなきゃいけない原稿そっちのけで、あっという間に『魔法のコンパス』『革命のファンファーレ』 2 冊とも読み終えた。衝撃しかなかった。
読むきっかけになったのは、はれのひが起こした事件の直後、西野さんが新成人たちを集めてやり直しの成人式を行った、という報道を見たことだった(参考:現代ビジネスの記事)。金策を行い、イベントを呼びかけ、着物を届けて本当の晴れ舞台を用意する--有名人だからといって、やすやすとできることではない。一体、どういうことだろう? 気になって Kindle で本を買った。
そこには、西野さんがひな壇にあがらなくなってからの、行動に次ぐ行動の奇跡が記されていた。
まず、作家がこれまで 1 人ないしは 2 人で製作していた絵本を、クラウドファンディングによって資金を調達し、複数の分業体制で絵本を製作する、というかつてないスタイルで世に送り出した。それが『えんとつ町のプペル』だ(本はコチラ)。
作品の著作権を放棄し、ネット上で無料公開、原画の展示会を開催し、自分で1万冊も著者購入し、自ら販売サイトを立ち上げて手売りする。どうして『革命のファンファーレ』が、初版7万部という刷り部数を叩き出すことができたのか。そのプロセスが丁寧に綴られている。「当面の目標は、ウォルト・ディズニーを倒すこと」と公言し、出版社、古本屋、果ては街づくりと、その活動の幅を広げている。その問いの立て方と行動力に、心底、頭が下がった。
ファンファーレが告げるのは、「出版てなに?」という根本的な問いだ。出版業界の端くれにいる私にも、その問いは向けられている。
実は『革命のファンファーレ』が発売されたことは、発行部数 5 万 5,000 部を越えるビジネス書評のメールマガジン「毎日3分読書革命!土井英司のビジネスブックマラソン」で知っていた(BBM についてはコチラ)。(あ、西野ってこんな本も出すんだ。土井さんが褒めるのも珍しいな)と思っていた。
その上、やり直し成人式である。お笑い芸人としてテレビの枠の中にいた人が、そこを飛び出して、誰かを笑顔にしている。そのことに深い感動を覚えたし、2 冊で彼が訴えているのは、出版という業界の問い直しで、編集者もライターも、仕組みそのものを考えなきゃいけない、という強烈なメッセージだと受け止めた。
そして、本だけじゃなく、本当に衝撃を受けたのは、その後だった。
本を読み始めてすぐに、西野さんのツイッターアカウント@nishinoakihiroをフォローした。本当に手を動かす、行動する芸人だということが、まっすぐ伝わってきた。
まさに西野さんの 2 冊を夢中になって読んでいた最中の 2018 年 2 月 6 日、台湾東部の花蓮沖で震度 7 の地震が発生した。確かに大きな被害をもたらし、今なお人命救助の捜索が続けられている。痛ましいし、台湾に暮らす 1 人として、何ができるのだろうと考え続けていた。
地震発生 2 日後の 2 月 8 日朝、以前取材でお世話になった台湾のエッセイスト・米果さんから「翻訳を手伝ってほしい」と、花蓮のユースホステルの支配人が書いた文章が送られてきた。少しでも役に立つのなら、と大急ぎで翻訳し、数人で原稿を確認して、米果さんに渡した。その翻訳原稿は、即座にホステルの Facebook ページに掲載され、仲間たちのシェアによって次々と共有されていった。
ページはコチラ→ 洄瀾窩國際青年旅舍 Hualien Wow Youth Hostel
翌 2 月 9 日、「台湾東部地震を受けて」というタイトルで西野さんがブログを更新された。開いて驚いた。昨日翻訳してシェアが広がっていた文章の一節が、引用されているではないか! その上で、西野さんはこう書いてくださった。
今回の地震を受けて、
過剰な報道や応援がもたらす風評被害を防ぐために、
被害の大きかった花蓮に足を運び、
花蓮のものを食べ、
花蓮にお金を落とし、
花蓮の現状と、そして
花蓮の変わらない魅力を日本の皆さんに伝えることが、私達ができる観光地「花蓮」への支援だと考えました。
現地の方々の心情を最優先にして、余震の様子を見つつ、頃合いを見計らって、我々のスタッフを「観光客」として現地に向かわせようと思います。
この、あんまりにも絶妙なタイミングと、本で読んでいた実行力を目の当たりにして、心が震えたし、少しでもお礼をしたくなった。西野さんの術中に、ものの見事にハマった格好だけれど、本を通じて学んだこと、私なりに少しでも実行せねば。
さて、きっと読んでくださると信じて、西野さんへも一言。こたびの件、本当にありがとうございます。実はワタクシ、いわゆるお笑い芸人では千原ジュニアファンなのですが、それはそれとして、行動で笑顔を届ける芸人・西野さんの台湾支援を、活動を、微力ながら応援させていただきます。
そうそう、私個人としては、現地の混乱が落ち着いたら、花蓮の取材に動きます。
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