みうらじゅん著『「ない仕事」の作り方』に見るプロデュースの本質。

「ない仕事」の作り方

長年のナゾが解けた--読み終えてそんな気分だった。『「ない仕事」の作り方』がそれである。ナゾといっても(髪の長いこのオジさん、よく見かけるけど、いったいどういう人なんだろうなあ)とぼんやり思っていただけのことで、まあ、大したことではない。そのオジさんとは、著者のみうらじゅんさんである。

今年の 11 月 24 日に発売された本書、アマゾンには早くもレビューが付いていて、どうやら昔からのファンだと思われる人から「まともすぎて不安になった」と評されていた。本書は、端的にいえば、ご本人の語る仕事の極意だ。

 

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読んでみて、めっちゃすごい人、ってことがよーくわかった。何しろ。

 ゆるキャラ マイブーム

この言葉の生みの親。2 語ともとっくに市民権を得て、おそらく意味を知らない人もいないだろうから解説しないけど、重要なのは、本書で書かれているその市民権を得るまでのプロセスだった。2 語に代表されるさまざまなブームがどのような経緯を経て生まれ、どんな仕掛けを経て世にブレイクしていったのかを、仕掛け屋でありプロデューサーであるご本人が解説していくんである。

 私の仕事をざっくり説明すると、ジャンルとして成立していないものや大きな分類はあるけれどまだ区分けされていないものに目をつけて、ひとひねりして新しい名前をつけて、いろいろ仕掛けて、世の中に届けることです。(本文より引用)

その、世の中に出す際の自身のスタンスを、ご本人は「一人電通」と呼ぶ(「博報堂の方とお仕事をする際は、「一人博報堂」に変更します」というただし書きもある)。

 それまで私は、自分が「これは面白い!」と思ったものやことがらに目をつけ、原稿を書いたり、発言したりしてきましたが、世の中の話題にならないことのほうが多かったことは確かです。
 そこで、「だったら流行るかどうかをただ待つのではなく、こちらから仕掛けていこう」という発想に至りました。
(本文より引用)

そうして、目をつけていたゆるキャラに、どのような仕掛けをほどこしていったのかが明らかにされていく。いやはや、その手法は編集者にとっておおいに参考になるものだった。実際、語られている大半は編集者の仕事に大きく通じている、んである。これまでずっとプロデュースと編集って似ているなあと感じていたのだけれど、本書でその思いを強くした。

というのも、編集者の仕事は、まだ本になっていないものに目をつけて、いろいろ仕掛けて、世の中に届けることだからだ。

版元で担当編集者として働いていた頃でいうと、まだ本が出ていないものに目をつけ、予算も含めて企画書にまとめ、営業部を説得し、制作体制の構築から、原稿入手、編集作業全般を行い、社内了承を得つつ書名をつけ、値付けし、広告素材を作り、発売イベント、著者の露出計画などを仕掛ける。こんなふうにして世の中に届けていった。

昔、このただ中にいたときは(どうして営業がやるような仕事まで編集部がやらなきゃいかんのだ)とブーたれていたこともあったのだが、本書を読みながら、そうか、一人電通(もしくは博報堂)か! と膝を打った。

本は、よく著者のものだと思われている。それはそれでいいんだけど、そう思われるようにもっていくのが編集者の仕事だ。むしろ、著者が世に出ていくのを、してやったり、と思うくらいがちょうどいい。それが黒子の醍醐味なのだから。

そうしてプロデュースする際のネタとの距離について、著者は言う。

 「次のマイブームはなんですか?」とよく聞かれますが、私は何でもかんでも流行らそうとしているわけではありません。私が「仕掛け」をするのは、本当に好きになったものだけなのです。(本文より引用)

 どんな仕事であれ、「やりたいこと」と「やらねばならぬこと」の間で葛藤することが多いと思われます。それは私も同じです。そこで肝心なのは、そのときに「自分ありき」ではなくて、「自分をなくす」ほど、我を忘れて夢中になって取り組んでみることです。新しいことはそこから生まれます。(本文より引用)

世の中には、まだ知られていないおもしろいことは、たくさんある。それをいろんな人に知ってほしい。そういう熱は、何も編集者でなくとも持っている人は大勢いるだろう。本書は、そういうまだ見ぬ原石の磨き方を伝えている。ライターでも、翻訳家でも、あるいはまったく異業種の人でも、著者のノウハウに学ぶことは多々ある、そんな 1 冊だった。

 

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