上阪徹著『超スピード文章術』で知る〝二度手間〟問題の解決法

(ああ、原稿加筆の指示か……片付けた資料を、また開いて調べなきゃいけないじゃん。ってか、最初からこれも含めて書いてくれって言われれば、この二度手間なくなるのに。まったくー! 調べ直しって、めっちゃ時間かかるんですけど)

ちょうど受けていたライター仕事で、編集さんから追加情報を依頼され、クサっていた。そんな時にぶつかったのが、『超スピード文章術』(ダイヤモンド社)にあった一文だ。

「書き始めてから素材が足りないことに気づいて、あとからもう一度素材集めに走ることが、時間的にも精神的にも、もっとも大きな負荷がかかります」(本書より)

まさに!!!

台湾でライター仕事を受けるようになっていちばんの悩みの種だった。日本語だけで取材が済んでいた時と違い、まだまだ不出来な中国語で取材をしている身としては、この情報追加の指示は実に痛手で、100 字に満たないキャプションの追加でさえ、ひどく時間がかかる。

取材した内容をメモに落として整理し、パソコン上でファイル管理を徹底し、必要な資料をまとめて整理しておいてさえ、「この情報、追加してください」といわれる場合の大抵は、自分が想像していなかった内容だったりする。おまけに編集工程の関係で、一度発生すると時間はないに等しく、どうしたって別の仕事をいったんストップさせなければならなくなる。下手すると各方面に差し障りが出るため、精神的に追い詰められてばかりだった。

そんなわけでこの手の作業が発生すると、編集者へのフマンに置き換えて人様のせいにするという、公式が出来上がっていた。私の場合。ああ、まったく、私ってヤツは!!

本書『超スピード文章術』は、数々のベストセラーを生み出し、ライター歴 23 年以上で一度も〆切を破ったことがないブックライター・上阪徹氏が指南する文章本だ。「 1
日 300 字が 1 時間 3000 字」になった著者が、これまでどんな実践を重ねてきたのか、その経験値が言語化・体系化され、次のような章立てになっている。

序章 なぜ文章を書くのに時間がかかってしまうのか
第 1 章 10 倍速く書ける「素材文章術」
第 2 章 正しい素材を集める 2 つのルール
第 3 章 素材をひたすら集める
第 4 章 素材を読みやすい順番に組み立てる
第 5 章 一気に書き上げる
第 6 章 読みやすく整える
実践編章 ケース別・速筆術

本書を読み終えて、クサっていた理由は単なる自己正当化に過ぎなかった、という事実を突きつけられることになる。それは、天地がひっくり返ると同時に、自分のライター仕事における準備不足に正面から向き合う時間にもなった。

考えてみれば、上阪さんのこれまでの著書でも、準備の重要さはことあるごとに強調されている。

--「仕事にどうしても時間がかかってしまう」という声を聞くことがあります。
 時間がかかってしまうのも、準備不足という要因が大きいと私は考えています。
 しっかり準備をせず、全体像が見えないまま、とりあえず手をつけてしまうから、結果的にとても効率の悪い仕事になってしまう。
(『やり直し・差し戻しをなくす できる人の準備力』より)

--どうにも仕事にやらされ感がある。面白くない。いつも何かに追われている感じがする。(略)
 やらないといけないことが、ぼんやりしているのです。
 いつまでにやらないといけないかは理解している。しかし、それをどうやってやるか、はっきりしていないことが原因なのです。
(『〆切仕事術』より)

これまでの自分に何が足りなかったのか、そして、これからは何が必要なのか。人様のせいにすることなく、二度手間ループから脱することができそうだ。翼を手に入れたような爽快な気分だった。

ところで、本書の謳う「素材文章術」は、これまでの文章観を覆す一言でもある。学校の国語の授業で評価される作家的な「うまい文章」ではなく、何が起きてどう感じたのかを言葉にする「内容のある文章」をめざそう、という提言は、ライターだけでなくネット時代を生きる皆に必要な、文章との向き合い方を示している。

上阪さんの自著にはこうした「概念の問い直し」が必ずある。毎度、ハッとさせられる。だから、ちゃんと買って読もう、と思う。そして読み返す頻度も高い。

余談だけれど 2016 年に上阪さんの主宰するブックライター塾で講義を受けた際は、「素材」ではなく「部品」とおっしゃっていたと記憶している。部品もよかったけれど、素材といわれて、ぐっとリアルになったと感じたし、腹落ち感が半端ない。体験や経験を言語化するのは、実は簡単なことではない。「それをどう言えばいいか」を見つけ、整理し、体系化する。そこに至るまでには、徹底した体験と徹底して考え抜かれた思考が、どうしたって必要になる。

上阪さんの言語化によって、大いに救われたことは前にもあった。ブックライター塾で教わった「編集者にはどんどん赤字を入れてもらえばいい」がそれだ。

これまたちっぽけな自分をさらけ出すが、フリーランスになりたての頃、編集者の赤字がどうにも苦痛だった。赤字を己の否定と同義のように考えていた。けれども塾の講義で「その文章は読者のためなのだから、編集者を敵ではなく味方と考える。目的を誤るな」という話を聞いた時、私の中の天地が、初めて逆さまになった。

それからというもの、赤字はまったくもって、ヘッチャラになった。自ら「読みやすく手を入れてくださって構いません」と言うようになったりして。たったそれだけのこと、と思われるかもしれない。でも、仕事上で毎度迎える、大きな心のハードルが一つ無くなったのは、大きな大きな学びだった。

そんなわけで、ライターとしてはまだまだ駆け出しのワタクシ。大先輩の仕事に学ぶことは、多い。この先も何度も読み返す 1 冊になりそうだ。

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