台湾書籍《老雜時代》で知る雑貨店という場所。

2017 年 9 月 6 日夜 7 時半、台北にある複合アート施設、華山 1914 で 1 冊の新刊イベントが行われた。本のタイトルは《老雜時代》。会場に集まったのは著者の知り合いやご家族など含めて 40 人ほど。会場の後ろにある階段状の座席で子どもたちが走り回る音が響く中、こぢんまり、アットホームな会だった。

本書のタイトルは「雑貨店のあの頃」のような意味で、台湾の昔ながらの雑貨店 32 軒を訪ね歩き、その店の歴史とともに物語を紹介している。ぱらっとページをめくるだけで、懐かしいにおいが沸き立つようだ。

さて雑貨店は、繁体字でも「雜貨店」と書く。だが台湾では「柑仔店」と書いて「がまでぃゃむ」と読む台湾語のほうが親しみをもった響きがある。一口に雑貨といっても店によって置くものはさまざまで、駄菓子、調味料、米、酒、タバコ、生活用品など、仕入れるものは店主のさじ加減と付近の住民のニーズによっていたという。

1980 年代に入り、日本と同じく台湾にもコンビニチェーンが進出すると、瞬く間にコンビニが増えていった。それは同時に、雑貨店の下り坂の始まりでもあった。本書で紹介されている雑貨店のほとんどは跡継ぎがなく、いわゆる斜陽産業の一つといえる。

著者は、そのコンビニ来襲前後に生まれたライター林欣誼さんとカメラマン曾國祥さん夫妻だ。「最初から本にしようと考えていたわけではなくて、記録として残し、次の世代に伝えられればと思って撮り始めました」と曾國祥さんは話した。

店の場所は、見開きの地図上に示されている。残念ながら台北は含まれていないのだが、その他の東西南北、台湾全土を訪ねたことが見て取れる。イベント会場でサインをもらいながら確認したところ「台北にも雑貨店はあるんです。だけど、取材を受けてくださるところがなくて紹介できませんでした」と答えてくれた。ううむ、残念。

お二人の取材のスタートはスマホ。車を走らせながら Google で「地区名+雑貨店」と入れて検索し、近所をいく人、時には交番のお巡りさんに場所を聞いていった。訪ねた地区は、閩南系、客家系、原住民系と特色が出るよう選んだという。いかにも前からありました、という外観が気に入って初めて店で飲み物を買ってみる。そうしてご店主のOKをもらって初めて取材を始めたという。だから、写真映えのする雰囲気たっぷりのお店ばかりなんだなあ、と納得がいった。

店がいつからどんなきっかけで始まったのか、品物の物流がどうだったのかなど、時には数時間に渡って、時には店の昔の写真や資料を見せてもらいながら、その店その店の歴史を聞き取っていった。

そうして、訪ねた先々で掘りあてたのは、庶民の暮らしの歴史だった。

雑貨店の人間なら、誰もが身に付けなきゃいけないスキルがある。それは、瓶をヒモで下げられるようにする縛り方だ。瓶の本数によって縛り方が変わるので、本数ごとに覚えなきゃいけないんだそう。本書には、そのカットが紹介されている。

象徴的だと感じたのは、雑貨店が単に品物を売るだけの場所ではない機能を持っていた、という話だった。ツケによる支払いだけでなく、貸金の役割を担っていた。おまけにご店主の中には、地元の「里長」、町会議員みたいな仕事と兼任するケースもあったという。

「だから雑貨店は、その土地の物流拠点でもあり、お金の拠点でもあり、情報の拠点でもあったわけです。こうした点は、現代のコンビニとはやっぱり違うんですよね」

コンビニは確かに便利で、もはや現代の生活で無くてはならない存在だ。だが、店内ではお金のやり取りだけで終えることができ、そこにはコミュニケーションがほとんど介在しなくて済む。便利なんだけど、それと引き換えに無くしてしまったものがあることに気づかされた。

本の表紙は店前で柔らかな表情を浮かべるおじさんの笑顔で、本屋でほかの本と並べられていても、不思議と目がいった。イベントのお客さんから「どうしてこの写真にしたんですか」と聞かれ「いやあ、これがいちばん気に入った写真だったんです」と答えていた。

街歩きのチョイスがまた一つ増えた。台北以外に出かけるときは、事前にこの本で雑貨店の有無を確かめ、寄ってみたい。

↓著者ふたりがテレビ出演して話す《老雜時代》。24分とやや長いけれど、丁寧に本が紹介されている。中国語わかる方はぜひ。

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