中国歴史ドラマ《大軍師司馬懿》を中国語字幕で観る時に押さえておきたいこと

2017 年の中国歴史ドラマとして観た中で、個人的によかったのは、三国時代、魏の稀代の軍師・司馬懿を主人公にしたドラマシリーズだ。第 1 シーズン《軍師聯盟》全 42 話、第 2 シーズン《虎嘯龍吟》全 44 話で合計 86 話。

第 1 シーズンを観終わった後、雑感を書いたけれど(こちら)、第 2 シーズンまでコンプリートした。司馬懿という人間が丁寧に描かれていて、あっという間だった。三国志というと日本で DVD まで出た『三国志〜The Three Kingdoms』(原題:三國、公式サイトはこちら)があるけれど、司馬懿のキャラ設定がまったく違っているのも、やっぱり三国時代は秀逸だと再確認できた。

第 1 シーズン《軍師聯盟》は、魏における曹丕と曹植の後継者争いを主軸に描かれる。続く第 2 シーズン《虎嘯龍吟》では、即位後の曹丕とその死をはじめ、以降の皇帝との権力闘争を含め、司馬懿が 72 歳で死去するまでのお話だ。

中国歴史ドラマのすごさは、脇を固める人たちの層の厚さにある。今回、お話の中心は司馬懿だけれど、彼を取り巻くキャラがいちいち濃い。曹丕、曹真、曹叡、曹爽はもちろん、曹叡付きの辟邪、司馬昭など、強烈キャラの畳みかけるような登場に、圧倒された。

さて、中国語字幕でドラマを観ながら、押さえておくといいなと思ったことがいくつかあったので、紹介しておこう。

■虎嘯龍吟

第 2 シーズンタイトル「虎嘯龍吟」。「龍吟虎嘯」ともいい、この「竜吟虎嘯」が日本の四字熟語にはあり、「竜(りょう)吟(ぎん)じ虎(とら)嘯(うそぶ)く」と読み下す。goo 辞書には『新明解四字熟語辞典』(三省堂)の出典として、次のようにある。

同じ考えや心をもった者は、相手の言動に気持ちが通じ合い、互いに相応じ合うということ。また、人の歌声や笛・琴の音などが、あたかも竜やとらのさけび声が天空にとどろき渡るように響くことをいう。▽「吟」は鳴き声をあげる、「嘯」はほえること。竜が声をあげれば雲がわき起こり、とらがうなれば風が生ずるといわれる。
goo 辞書より)

虎と龍が入っているからか、似たような四字熟語「以心伝心」に比べると、ぐっとグレードがあがった気がする(勝手なイメージ)。どうでもいいけど「龍」の字が好きな者としては、筆書きのタイトル文字、繁体字がよかったなあ(龍と龙では迫力が…)。

■五禽戲

第 1 シリーズの冒頭は司馬懿夫人の出産に始まり、そのお産に伝説の医師、華佗が登場する。そこで華佗は「五禽戲」を記したものを司馬懿に託す。以降、ラストまで幾度となく司馬懿の五禽戲シーンが出てくる。余談だが、華佗が曹操に殺されたのは歴史的記述もあるようだが、華佗が五禽戲を託したのが司馬懿という記述は見つけられなかった。

さて、この「五禽戲」とは何か。

簡単にいえば、華佗が編み出した健康法である。鶴(鳥)、猿、虎、熊、鹿の 5 つの動物を模した動きの型によって体を動かす養生法、と言い換えてもいい。

劇中、司馬懿は虎の動作を繰り返す。つまり虎は司馬懿で、もう片方の龍は諸葛亮孔明を暗示している。ただ、龍は 1 頭だろうか。メインの龍は孔明かもしれないけれど、全体を通じてみると、あの人もアノ人も龍と言っていいような。

この五禽戲、范曄(はんよう)という人が 5 世紀ごろに編纂した歴史書『後漢書』 82 巻に「華佗伝」での記載があるそうだが、実は現代にまで伝わる。後年、易経や陰陽五行などといった要素が加わえられたことで、流派によって動きには諸説あるようだが、いずれにしても長い間かけてその効能が熟成されてきたといえる。

5 種の動物すべてが、体のさまざまな部位につながる。鶴(鳥)は神経と循環器、猿は消化器、熊は泌尿器と内分泌、鹿は血液と消化器。そして、虎は呼吸器と免疫系に効能があるとされる。

なお、チャン・イーモウ(張藝謀)監督の映画『グレートウォール』(原題:The Great Wall/長城)に登場する 5 つの軍も、猿が鷹になっているものの、この五禽戲が原型だという。

■心猿意馬

もう 1 つ、ドラマの軸になる故事成語が「心猿意馬」だ。飼っているカメの名前だけれど、ところがどっこい、深い意味が隠されていた。

成語の意味としては、以下のようにある。

煩悩や情欲などの邪な欲望で心を乱されて、心が落ち着かないこと。
または、そのような欲望を抑えることができないことのたとえ。

四字熟語辞典オンラインより抜粋)

実は、意味をまったく知らないまま、中国語字幕でドラマを観ていた。観終わってから、この成語の意味を調べて、いろいろと合点がいった。なぜこんな名前をつけたのか、ストーリーに合わせて徐々に成長していく亀がヨリの画で映し出されていた理由、そして最後話までこの亀が出ていたこと…ドラマに描かれている司馬懿と重なり、一段とおもしろく感じられる。うーん、伏線の張り方がすごい。

■前後関係の整理

用語ではないけれど、気になったのでドラマの軸になる登場人物の没年を調べてみた。

 曹操  220年没 享年 65 歳
 曹丕  226年没 享年 39 歳
 曹真  231年没 生年不詳
 孔明  234年没 享年 53 歳
 曹叡  239年没 享年 34 歳
 曹爽  249年没 生年不詳
 司馬懿 251年没 享年 72 歳

『三国志〜The Three Kingdoms』の放送が始まった 2010 年から 7 年になる。劉備を演じていた于和偉が今回は曹操というキャスティングには驚いたし最初は違和感ありまくりだったけれど、チェン・ジェンビン(陳建斌)の曹操とは違った味と強烈な存在感を出していた。曹操だけではない。誰もが圧倒的な存在感を残すキャラとして、とにかく魅せる。

司馬懿の視点から見る三国志は、改めて新鮮だった。『三国志〜The Three Kingdoms』では、魏呉蜀三国それぞれのストーリーが見えて、自分が蜀(というか劉備)に肩入れしていたことに気づかされた。今回は、三国を俯瞰した形での三国志観でなく、司馬懿の立ち位置から魏の内部で何が起きていたのかに焦点が当たり、さらに、孔明の登場で蜀の持っていた危うさや孔明の足場の脆さが浮かび上がっていた。日本でも、戦国時代をどこの誰の視点で見るかで歴史の見え方は随分と変わる。それは、別の国の歴史でも同じなのだと思い至った。

そういえば、昨春あたりから別の三国志ドラマが始まる、という記事を見かけている。それもなんと、姜文(ジャン・ウェン)の演じる曹操で、百度にも項目が立っているほどなのだけれど、一向に始まったという話を聞かない。どんなドラマになるのか、楽しみに待ちたい。

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