『武器としての書く技術』を読む

ikehayabook著書『武器としての書く技術』(中経出版)を読んだ。著者のイケダハヤトさん(@IHayato)は、プロブロガーを名乗る 86 年生まれの書き手。「まだ東京で消耗してるの?」というブログを運営している。多少のぶれはあるとしてもデイリーの PV は 40,000 ほど、ブログを通じた年商は 600 万を超えるという。今年、6 月に高知県に移住し、そのさまざまな活動の様子はとても興味深い。端的にいうなら本書は、次世代の、ネット時代を生き抜くための文章術だ。何より心強いのは、ライターが食えなくなったといわれる時代に、こうして書くことで生きている人がいるという事実そのものだ。本書ではその術を惜しげもなく披露している。

書くスキルについて書かれた本は、昔からたくさん出ている。古典でいえば、本多勝一『日本語の作文技術』、板坂元『考える技術・書く技術』、少し前なら山田ズーニー『おとなの小論文教室。』などなど、あげていくとキリがない。そういった類いのスキルについても、著者は「文章が残念な人の 10 の特徴」と題して、一文が長いこと、同じ語尾が続くこと、抽象的すぎること、私的すぎること、〜だと思いますなどの表現が多いことを的確に指摘し、なぜつまらないかを解き明かす。さらに、易しく書くための具体的な方法も提示している。このあたりの話は、ライターにも翻訳者にも編集者にも改めて参考になる、ということは触れておく。

 

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さて、本書第 2 章までは、いってみればあまたある古典と同じテイストだ。秀逸なのは、3 章「月 40 万字書き続けるぼくの 12 の秘密」、4 章「ここまで公開していいのか? 書いて月 50 万円稼ぐ方法」といった、現代に必要なスキルについて触れた部分だ。インターネットという新たな世界が構築されていく中で、「書く」こととどう向き合い、生きてきたのか。ご本人も随所で「簡単ではない」と触れているけれど、たとえば 40 万字書く、ということを持ってしても、かなり大変だ。ブログをストック型ビジネスと位置づけ、ブロガーをストリートミュージシャンにたとえる。なるほどなあ〜と思うことしきり。具体例については、核心にあたると考えるので、ここでは披露しない。

四国出身者としては、高知に移住したあたりから(へえ!)と思っていたのだが、本書を読んでみて、なぜ彼をオモシロいと思うのか、その理由に行き当たった。「少数派にもやさしい社会をつくろう」の項に「多くの人がブログで自分の意見を発信することで、世の中に多様性が生まれます」と書いた上でこう続ける。

第三者のブログを通して「なるほど! この立場からはそういうふうに見えるのか」という社会的には主流ではない、けれども価値のある意見を発見することがあります。善きにせよ悪しきにせよ、インターネットはマイノリティーの意見を表出し、そこに人のつながりを生み出す作用があるということです。(略)
マスメディアに育てられ、かつ同質性を善きとする教育にさらされてきた現代の日本人は、考えの違う他者の存在を認め、意見を交わすことが苦手です。(略)
多様な意見が露出されることは、一部の人たちの排他性を強めることにもなりえますが、性質が違う人々のあいだに新たなつながりを生み出す可能性もあると、ぼくは信じています。

確かに、わたしが書いていることの多くは、主流にはなり得ないことばかりだ——そう思っていたのだけれど、20代から始まった介護と看取りの話を書いたブログは同世代の友人が自分の親の病と向き合う際に読んだと聞いたし、台湾の留学記を書いた Facebook の文章には大勢の友人たちからコメントをもらった。留学記は Facebook 上でしか書かないと話していたら、わざわざ Facebook にアカウントを作ってくれた人までいた。サイトを自分で開設し、もっとオープンにしよう、と考えたのはそういった背景があったからだ。もしかしたら、もう若くないから留学なんてできない、そう思っている人の背中を押したいし、人生にはいろんな可能性がある、台湾にはいろんな未知のことがある、その端っこでも伝えられたら。

30 代で介護生活するのもマイノリティーなら、40 代で会社辞めて留学するのもマイノリティーだし、語学学習に英語ではなく中国語を選び、さらに留学先に中国ではなく台湾を選ぶのもマイノリティーだ。でも思うのだ。マイノリティーの一面は誰にだってある。本来異質なものを、同質だと勘違いすることから、思考の負のループが始まる。そうして自分の感じる相手の異質さに嫌悪感をもつ。

自分と 100% 同じ人なんて世界中探し回ったっていやしない。だけど、違うからこそ世の中はオモシロいんである。そう、改めて感じさせれてくれた1冊だった。

 

武器としての書く技術 (中経出版)


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