『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』と『オリガ・モリゾウナの反語法』を読む

yone02少し前に米原万里さんの著作『不実な美女か貞淑な醜女か』を紹介した。本書もいたってよい本なのだが、真骨頂ともいえる作品を紹介したい。『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』と『オリガ・モリゾウナの反語法』だ。2 冊は作品の持つ時代背景、スケール、物語のパワー、どれをとっても圧倒される。先に紹介した 1 冊は通訳者としての経験や思考がふんだんに紹介された言語寄りの内容だったが、今回ご紹介する 2 冊は著者自身が 1960 年代にチェコスロバキアで過ごした体験が作品のベースにある。しかも壮大な謎解きというテイストで。

 

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ところで 1989 年 11 月のベルリンの壁崩壊をご記憶だろうか。わたしは愛媛の片田舎に暮らす中学生で、14 インチの小さな画面に映し出された、壁の上にいる人たちがハンマーで壁をたたき壊す様子を見ながら、「どうしてニュースになるんだろう」と不思議だった。

『嘘つき〜』と『オリガ〜』は、いってみればそうした壁の向こう側で起きた物語だ。前者はノンフィクション、後者は実在の人物をもとにしたフィクションという決定的な違いはあれど、著者がプラハで見聞きした出来事の謎とその後の人生を、30 年後にひも解いていく大枠は共通している。そして、その種明かしは、深く、広く、重い。

プラハのソヴィエト学校で出会った人たちの背負っていた背景、とても仲の良かった友達から手紙が来なかった理由、憧れていた同級生の瞳の色が冷えていた訳、プラハから日本に帰国した時のショック、ペレストロイカ前後の現地の姿、冷戦下で伝えられる報道に対する気持ち、そして30年後に知る当時の謎とその後……東西冷戦の狭間にいた著者の視点を通じて、社会に翻弄される様子とそこに生きる人の姿が丁寧に描かれる。

翻って、両作品が突きつけるのは「いかに知らないか」という西側に生きる者の状況でもある。著者は言う。

ロシア語が理解できる私には、西側一般に流される情報とは異なる、ロシア経由の報道に接する機会がある。だから、「強制収容所」も「集団レイプ」も各勢力においてあったことを知っている。(嘘つきアーニャの真っ赤な真実)

ソ連という国は、いろいろ過ちも犯しました。でも、今のようなアメリカの一元的な支配ではなく、それに対抗する存在があったことで、そのどちらにも属さない国や地域や運動体が、かなり元気に活動できたんだなという気がしますね。(オリガ・モリゾウナの反語法、巻末の池澤夏樹との対談)

一人の見える範囲なんて限られている。国際ニュースだってたかが知れているのだ。世界は広い。その世界を本が広げてくれるのだ、とつくづく思う 2 冊だった。

なお、前にご紹介した『不実な美女か貞淑な醜女か』は文庫しかなかったのだけれど、この2冊はいずれも文庫もあるし Kindle でも入手可能。リアル書店で買える方はぜひ。

嘘つきアーニャの真っ赤な真実

オリガ・モリソヴナの反語法 (集英社文庫)

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