初イベント「物書きトーク」で話してきました。

2019年5月5日、初めてトークに出させていただいた。このイベントは、片倉佳史さん真理さんご夫妻が「台湾探見・探索日本」と銘打って16日もの間、歴史あり、マッサージあり、歌あり、鉄道あり、原住民ありと台湾ならではのバリエーション豊かなゲストを迎えて開催する内容だ(詳細)。私には「物書きトーク」として台湾での取材についてアレコレ話す、というお題が与えられた。心強かったのは、登壇するのは自分だけでなく『& Premium』の連載でご一緒している片倉真理さん、近藤弥生子さんと一緒だったことだ。

依頼からさほど時間の立たない4月半ば、真理さんから「申し込みが24人になりました」とメッセージが届いて仰天した。近づくにつれてその人数は増え、直前にはなんと満席になっため「申し込み打ち切りました」と連絡を受けた。いやいや、有料よ、200元ですよ。

そんなお金いただくような話ができたかはよくわからないけれども、とにかく当日は『&Premium』を軸にしつつ、3人それぞれの取材について1時間半、話した。連載だけで毎月10件近くの取材を進める真理さんに、書籍やネットメディアの制作にもかかわっている弥生子さんの話は、どちらも地に足のついた内容で、学ぶことが多かった。改めて貴重な場への機会をいただいたことに感謝したい。以下は、自分なりの整理などを兼ねて。

今のガイドブックを支えるもの。

冒頭、在台20年、数々のガイドブックを手がけてこられた片倉真理さんが『&Premium』というライフスタイル誌で、連載されていたニューヨークに代わって台北を連載することになったのは、「とても感慨深い」という感想から始まった。

それまでの海外旅行本とは別に、女性誌で台湾特集を組むようになったのは、東日本大震災で台湾がいち早く義援金を日本に送ったのがきっかけだった。台湾へのお礼として組まれた女性誌の台湾特集がヒット。同様の企画を他誌も組むようになり、次第に別冊化され、それも売れた。中には増刷になったものもあると聞く。いまやガイドブックも雑誌も、誌面の二次利用というサイクルはよい収入源と見えて、その動きは男性誌にも広がり、台湾特集は年間ラインナップに組み込まれ、数タイトルは別冊化のサイクル含めて固定化しつつある。

そもそもガイドブックは、今、その地にある、いろいろなものを紹介する形が基本だ。「今+台北」「今+台東」「今+台南」という項目をかけあわせた横軸での広がりが、その紹介の対象になる。

そこで力を発揮するのが現地に暮らし、日々、街を歩いているコーディネーターやライターだ。編集部から「新しいスポットを」「他誌でまだ紹介されていない場所を」「こんな路線でお願いします」という、無茶ぶりにも似たリクエストに答えるには、しっかりした足場と確かなストックが欠かせない。

その上、ストックのクオリティは、ネットの時代だからこそ、ちゃんと足で歩いているかどうかが境目になる。台湾のガイドブックを1冊しか買ったことのない人にはわからなくても、何冊も見ている側にとっては、恐ろしいくらいに違う。

ただ、ここでもう一つ問題になるのが日本の編集者との情報格差だ。トーク中、近藤弥生子さんがこんなエピソードを明かした。

「日本の編集者の方々が持つ台湾のイメージとして『ちょっとノスタルジックで、チープな感じ』というものがあります。けれども、台湾にいる方ならお分かりの通り、実際の台湾はそこから大きく変化している。その編集者のイメージは違うんだ、ということをわかってもらうのが大変です」

実はこの「壁」の話は、これまでにライター仲間の間でたびたび話題にされてきた。台湾特集を組むのはありがたい、だけど、時に台湾に一度も来たことさえない編集者の「こんな感じ」に振り回されてしまうことだってある。他誌に先駆けて「新しい」を謳う記事を作りたい、そんな編集者の思いは皆理解している。ただ……これだけ台湾特集が飽和する状態だと、新しい点だけを求める誌面づくりは、厳しくなってきているようにも思う。自分の暮らす街をただ消費されていく対象に止めるのではなく、点から線や面に、そしてもっと広い交流の場につなげていく企画を考えていきたい。台湾の編集者やクリエイターとのコラボとか、もっと違った企画が展開できないものだろうか。

あ、ちょっと横道にそれたが、それでも基本的に押さえておくべき姿勢がある。真理さんが言ったのは在住者が時に忘れがちな視点だった。

「台湾に長く暮らしていると、多少慣れもあって、お店があんまり綺麗じゃなくても味がよければいい、と思ってしまう。けれども、日本に紹介する際は、アクセスや清潔感も見ながら選ぶようにしています。リピーターの方たちには『またここか』と思われるかもしれないんですけれど、それでもまだ台湾に来たことのない人がいる、という視点を忘れないようにしています」

旅行と定住では、明らかに視点が変化する。私自身、在台6年という中で、その変わりようを自覚しているし、定住という異文化への適応を迫られる身として必要なことでもある。でも、そこで「最初の衝撃」を忘れずにいるのは、やっぱり大事なことだよな、とハッとさせられた。

在外ライターに求められるもの。

さて事前に出されたいくつかのお題の中に「ネタ探しをどうしているか」というテーマがあった。私が答えたのは、現場100回ならぬ、「本屋100回、本100冊、人100人」である。

私の台湾取材は本屋に始まる。それが2016年には「たいわんの本屋」というWEB連載になり、2017年の『な〜るほどザ台湾』では「台湾絵本セレクション」という特集になり、昨年からは『& Premium』で「見る読む手にする台湾雑誌」というコラムにもなった。ちなみに、今回会場となった田園城市風格書店さんは、本屋コラムで紹介したお店でもある。

このうち、絵本以外の企画は編集さんの企画だ。トークで紹介できればと考え、『& Premium』の担当編集さんに「どうして雑誌のコラムを入れようと思ったんですか?」と聞いていた。私の質問したタイミングが悪くて、トークでは披露できなかったのだけれど、後日、こんなお返事が届いたので紹介する。

「以前あった&NY、いまも続く&Paris、&京都と、街ガイド以外のコラムはその都市ならではのテーマなので、とくに何を入れるかという決まりはありません。&Taipeiの場合は、台湾映画のテーマはわりとどこでも見かけるので、同じアジア圏として「雑誌」をテーマにしたらおもしろいかも、というノリで片倉さんに相談して決まった、という経緯です。「雑誌」や「本」というテーマ自体、弊誌との親和性も高く、始めてみて、なかなか興味深い内容で良かったな、という感想を持っております」

通常、お店取材なら、リサーチ→編集部OK→取材打診→取材→執筆→確認→掲載、という流れがある。本屋の場合は、いわゆる大型書店やチェーン店だけでなく、とにかく本のある場所を歩く。そうすると、店の違いや置かれる本の違い、また今、台湾ではどんな本が注目されているのかも見えてくる。これがガイドブックなら、リサーチの対象はカフェやレストランといったお店になるが、場数という蓄積はいずれにしても必要だ。

もう一つ。日本でいう「ライター」は編集者からの発注があってその文章力を提供する場合を指すことが多い。これが在外ライターの場合、文章力もそうだが、それ以上に企画提案の力も欠かせない。文章はあとからでも修正できるけれど、言語や文化を越えた情報を企画にしていくには、どうしたって日本側の考えだけでは企画にしづらいことがある。だから現地とすり合わせは欠かせない。交渉力や提案力と言い換えてもいい。

その上、このネットメディア隆盛の時代、在外ライターにはさらに求められることがある。それが写真だ。真理さんは、それまでご主人の佳史さんが撮影を担当していたのだが、『&Premium』では自身が行なうようになった、という。

「一人で何役もこなさなきゃいけないのは、それはそれで大変なのですけれど、日本から取材班が来るお仕事でたとえば1日に7件取材となると、大勢の日程をすり合わせなきゃいけません。今は、自分のスケジュールで動けるので、それはそれでやりやすいなと思いましたし、カメラをやることで新たな発見もありました」

自分の体験を話す、という体験。

原稿にすると長くなってしまったが、トークの1時間半は、あっという間だった。事前準備含めた時間は、改めて「どうやってるんだっけ?」「言いたかったことはなんだろう」など、自分のやっているライター稼業を見直す作業になっていた。

体験している最中に、振り返る作業が入ることはあまりない。特にライター業は「書く」という作業そのものがアウトプットになっているため、その立ち位置を考える作業は二の次になりがちだ。けれども、こうして機会をいただいて「誰かに話す」というプロセスを経てみると、新たな発見がいくつもあり、いつもの風景とはちょっと違った物差しを得たような気がする。

編集者歴は今年で22年になるのだけれど、ライターとしてはまだまだ「ペーペー」。あちこちぶつかりながらも、さまざまな経験を通して、私なりに「台湾を書いて伝える」道を拓いていきたい、と気持ちを新たにした。

最後に。イベントを企画した片倉さんご夫妻、登壇に声をかけてくださった真理さん、本の準備から参加者へのプレゼントまで考えてくださった弥生子さんはじめ、今回のイベントにかかわった皆様に心よりの感謝を込めて。そして、今後もどうぞよろしくお願いします!

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