台湾ドキュメンタリー映画《黑熊來了》を観る

2016年の台湾国際ドキュメンタリー映画祭(TIDF)で上映された1本に李香秀監督の《黑熊森林》があった。ボランティアスタッフとして参加していたこともあって、上映前から注目し、映画祭の期間中に見に行った。以下はその予告編。

映画は、熊がテーマというよりも、台湾黒熊研究者の黄美秀さんと、その水先案内人として黄さんの研究を支えた台湾原住民ブヌン族の林淵源(Kaisul Istasipal)さんとの深く豊かなつながりを軸に、台湾黒熊の置かれている環境が紹介されていた。

その後、台湾黒熊の企画を立て、編集を担当しているエバー航空の編集部に提案し、無事に企画が通過して誌面で紹介したのが2017年2月号のことだ。クマの専門家に書いていただいた原稿だったこともあって、日本の熊との違い、台湾での生息数、そして現在抱えている問題などが指摘されていて、以来、熊のことが気になっていた(Y先生に感謝!)。

そんなわけで、2019年12月13日から公開されている麥覺明監督の《黑熊來了》である。予告は以下。

2008年から始まった撮影は、今年の春まで続けられていた。だからスタートから11年かけて撮影された。台湾のドキュメンタリーも、1テーマを長丁場で追うものがかなりある。本作では台北では見られない、台湾の山の魅力と、台湾黒熊の姿、彼らの置かれた環境の過酷さとそれに向き合う研究者の姿が濃厚にまとめられている。

本作も、主役は同じく台湾黒熊研究者の黄美秀さんだ。黄さんは、アメリカのミネソタ大学で博士号を取得した後、帰台。現在では屏東科技大學で教鞭を執る、台湾黒熊研究の第一人者だ。「山が好きだったので、山に行ける仕事として熊の研究にした」という黄さんは、台湾に戻って20年、今は学生も連れて台湾黒熊の調査を徹底的に行っている。(監督違うけど)前作とまた違う点として、撮影隊がマレーシアにも向かっていたことだ。マレーグマの置かれている環境も、台湾黒熊と同様に厳しいようだ。

それにしても、本作は熊の映像がたっぷりなのが何よりよかった。台湾にいるからって台湾黒熊の姿なんて見られないし、その生態が黄さんの熊ラブ満載の解説と共に紹介されているのがとてもいい。

研究の拠点になっている玉山国家公園内にある「大分」という場所は、台湾東部花蓮県にある。そこまでの道のりは、映像を見た限りでは入山から3日かかるようだ。この地は日本統治時代にはターフンと呼ばれ、駐在所が設置されていた。駐在所といっても、街の派出所みたいな小さな建物ではなく、豆腐の製造場所(!)も含め、かなり大型の施設だったようだ。本作の中では、その跡地を研究の拠点として山小屋を建てたこと、そこで皆が過ごす様子、小屋の周りの絶景とあわせて見られる。

そして前作では、山のパートナーとして登場したブヌン族の林大哥は、本作途中から登場しなくなっている。映画の中ではその理由は触れられておらず、この原稿を書くのにあれこれ調べていたら、2016年6月にがんで他界した、という訃報に接した。もうずいぶん経ってしまったけれど、改めてご冥福をお祈りしたい。

《黑熊森林》でも台湾の山ってめっちゃ素敵だなと思ったけれど、《黑熊來了》ではさらにその思いを強くした。熊好き動物好きにも、台湾の環境問題に関心のある人も、そして山好きにもきっと心に残る1作になるはずだ。

Post Navigation