【張媽の台湾ごはん】張媽流、ごはんに欠かせぬ三要素

幾度となく義母の横で料理する姿を見てきた。実験室みたいな台所の、どこに何が置かれているかはおおよそ把握したし、義母の話す台湾語の混じった言葉にも慣れ、次の動作がある程度予測できるようになった。やはり場数を積み重ねてきたからかも。

先日、義母に訊いてみた。「お料理で大事になる材料をあげるとしたら、何かな?」

義母は「そりゃ、まずはお塩でしょ。スープにだってなんだって、塩が入ってなかったら、水飲んでるのと同じになっちゃう」と言って、大きく笑った。義母が使うのは、台湾産の塩だ。南部の街・台南には広々とした塩田の広がる地区があり、塩も産業の一つだ。「台湾の塩はね、昔から伝わる作り方をしてるのよ。ほかの塩を使う人もいるけど、やっぱり台湾人だから台湾のものを大事にしないとね」。国産が安心とかいうよりも、この地を自分たちで支えるのだ、という一種の気概を感じた。日本でもヒマラヤの岩塩など、割と高級な塩が手に入る。交通手段の発達で、世界中から美味しいとされるものが日本の食卓に届けられるようになった。一方でそれは、地場産業に打撃を与えてもいる。

また、異文化に暮らす身からすれば、来台当初は日本の味が忘れられず日本産の食品を買い込んでいた。時間の経過とともに台湾の暮らしに慣れ、台湾産の食材をいかにおいしくいただくかを考えるようになってきた。そして、その食卓に届くまでの距離の移動は、本当に不可欠なものなのか。今、ここにあるものを工夫しながらいただくわけにいかないのか。それらの問いも持つことになる。あるいは、現地の食を受け入れることは異文化適応のプロセスの一つかもしれない。

「じゃ、次に大事になるモノは?」続けて訊くと、「油かな」と答えた。基本的に義母が使う油は下の写真のもの。炒め物は基本的にこれで、馴染みの豚肉屋さんで仕入れてきた脂身から自家製で作る。ラード以外の油は、台湾の高級品「苦茶油」やごま油、白馬油など、作る料理に合わせて変える。

オリーブオイルは「どうやって作られてるかわからないから」と義母の台所にはない。そう言われて、ハッとした。いわれてみれば「健康にいい」と聞いたことはあっても、どんな工程で作られているのか知らないし、考えたことさえなかった。テレビやレシピ本でオリーブオイルがいいという報道を鵜呑みにして、割と高めのオイルを買っていた自分は、なんとお手軽な消費者だったんだろう。

調べてみると、台湾における食用油は、1979 年以来、繰り返し大きな社会的事件が起きている。サラダ油に食用ではない材料を使っていたり、ピーナツオイルといいながら原料にピーナツを使ってなかったり、オリーブオイルには純度不足を補うために色素を添加したり、創業者が詐欺罪で捕まっていたりと、義母が油に疑心を抱くのも当然というか、買うのにはよくよく注意が必要な代物なのだった。

食の安全は、台湾でもたびたび問題になっている。義母は「外のモノには何が入ってるかわからないから」と外食に積極的ではないし、調味料も厳選する。そういえば義母が「私の作るものは、みんなの健康に直結するからね」と言っていたのを思い出した。

さて、義母が料理の時に大事にしているものが、もう 1 つある。

「香りになる材料ね。最近、葉ニンニクをよく使ってるのは、今が旬だから。いつ何を作るのかにもよるけど、ニンニク、生姜、フライドエシャロット、コショウ、セロリ、台湾バジル…お料理の香りってすごく大切だと思うわね」

葉ニンニクは、写真のように一見、長ネギだけれど、名前の通りでニンニクの香りが濃い。これを炒め物に入れるとき、義母は絶対にニンニクを入れない。どの料理にどの香りを立たせるのかが骨格にあるからだ。義母から教わりながら、塩+コショウ、ニンニク+生姜を、常に 1 セットで考えていたことに気づかされた。それぞれに、役割や使い道は違うのにもかかわらず。

特にコショウの存在は、新鮮だった。日本にいた頃に使ってはいたけれど、あくまでも脇役というか、端役で「塩がいるから」くらいでしかなく、コショウに対して本当に失礼ばかり重ねてきた。舞台が変わると、こんなにも鮮やかな演技をするのか!と目をみはるほどの存在だ。決定的に違うのは、おこわとスープ。いずれも、調理の後半戦で横で見ている私がくしゃみするほどに投入される。ただ、そのくらいの量を入れてはじめて香りが一変し、格段に豊かな風味をもたらす。下の写真は、義母の作る具沢山かゆ。これにも、コショウはたっぷり効かせてある。入っていないと、間の抜けた味で、しゃっきりしない。

一方で、台湾にも干し椎茸があって、義母もよく使うのだけれど、その香りはお好みではないらしく、ほとんど使わない。「だって、入れると全部シイタケの匂いになっちゃうでしょう?」

日本では料理を「目で味わう」とも言われるほど、見た目を気にする。義母は見た目も気にしないわけではないけれど、むしろ「いい香りでしょう〜!」と香りを強調する。目より鼻なのかもしれない。

人は、食べた物でできている--外食産業が隆盛を誇る台湾だけれど、食を大事に考え、自分で料理する人も確実にいる。義母のように「みんなの健康を守る」というとなんだかプレッシャーになりそうだから、そこまではいかなくとも、せめて自分を大事にするように、食事も大事に考えたいもんである。

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